東京科学大学(Science Tokyo) 総合研究院 元素戦略MDX研究センターの张主军特任助教(現 南京工業大学)、北野政明教授、細野秀雄特命教授らの研究グループは、バルク結晶の表面に電子層が浮いている新しい電子材料「エレクトレン」の創成に成功しました。エレクトレンは、エレクトライド(電子化物)の一種で、表面に高濃度のアニオン電子が存在しています。エレクトレンを化学的に安定化できれば優れた触媒になると考えられていましたが、合成が煩雑で、しかも極めて反応性が高いため、大気中で安定に取り扱うことが困難でした。
本研究では、高い極性を有するBaSiN2結晶の表面近傍で窒素の一部を酸素で置換し電子をドープすることで、表面に高濃度の電子層を浮遊させたエレクトレンが生成することを見いだしました。その仕事関数は1.5 eVと極めて低く、金属の中で最も低いセシウム(1.9 eV)をも下回ることから、極めて高い電子供与能を有することが分かりました。この物質を窒素雰囲気に曝すと、窒素分子が表面の電子と反応して、窒素分子イオンとして吸着し表面を保護することで、大気中でも取り扱えるまで安定化しました。一方、水素を流すと吸着窒素がアンモニアとして脱離して、表面エレクトレンが再生することも明らかにしました。これらの特徴を利用して、表面にルテニウムを担持しアンモニア合成を行うと、300℃、9気圧という温和な条件下で、世界最高水準のアンモニア生成速度が得られました。
エレクトレンは、電子化物の触媒としては1つの理想形です。今回、バルクの結晶の表面にエレクトレンを生成させる方法が得られたこと、およびアンモニア合成触媒への応用で、これまで障害となっていた化学的安定性と触媒活性を両立させる方法が見いだされ、新たな展望が開けました。
本研究成果は、6月23付(現地時間)で英科学誌「Nature Communication」にオンライン速報版が公開されました。
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